筆者は様々な機関で内部監査員研修の講師を10年ほど続けてきて毎年500名以上の受講生に対して研修を実施していました。

一般的なISO内部監査員養成研修

色々な機関で実施してきた内部監査員研修のカリキュラムは1日または2日間の研修で、次のような構成が一般的です。

  • 監査基準となるISO規格要求事項の解説
  • 内部監査の進め方の解説(監査のやり方、判定方法、質問技法、報告書記載方法等)
  • ケーススタディやロールプレイングにより監査の模擬体験

<ISO内部監査員研修アンケート結果による考察>

集合型(様々な企業から受講者を募って実施する研修)のISO内部監査員養成研修を実施した際には受講後にアンケートを実施しています。
上記のカリキュラムで好評なのは「ケーススタディやロールプレイング」です。講義による知識詰込み教育だけでは得られない、知識の活用により理解が深まったとの意見が多いです。

「ISO規格要求事項の解説」は意見の分かれるところで、「社内ルールの意義がわかった」「マネジメントシステムの全体像が把握できた」など前向きな意見から、「難しくて理解できなかった」「社内のルールが適切なのかわからない」等々後ろ向きな意見まで様々です。ISO規格要求事項は汎用性が高すぎであり、国籍/業種/規模を問わない内容となっています。その為「難解」であり「理解できない」ものなのだと私は講義の中で話をしています。実際にISO規格要求事項を理解したところで、限られた一部の人にしか、たいして仕事の役には立たないものです。ですが、理解しなければならないのはISO規格要求事項(=What 何)ではなく自社のマネジメントシステム/ルール(=How どのように)なので、「会社に戻ったら必ずマニュアルや規定を読んでみてISO規格要求事項を自社では、どのようなマネジメントシステムとして実現しているのか、どのようなルールを定めているのかを確認して下さい」とお願いしております。

ちなみに講習開始時に「マニュアルを読んだことがある人は手を挙げて」とお願いすると、だいたい手を挙げられる受講者が半数に満たないです。それはそれで社内での課題だと思いながら講習を進めています。

望ましいISO内部監査員養成研修

個人的には次のようなカリキュラムで実施できることが望ましいと考えています。
  • 監査基準となる社内文書(マニュアル、規定、手順書、順守事項)の解説と内部監査の重点ポイントの確認。(ISO規格要求事項との関連を含めても可)
  • 社内内部監査の手順の確認。(内部監査規定や手順書の内容確認、作成する記録の帳票や記載内容などの確認)
  • 過去の内部監査結果の検証および審査レポートなどの検証。(不適合や改善提案の内容や是正や改善内容の確認)
  • 内部監査で確認する事の確認。例えばチェックリストの作成。
  • 被監査部門を想定してのロールプレンイング。(質問の実施及び確認した監査証拠による判定)
社内研修でも十分に実施できる内容だと思います。また、私にご依頼いただければ幸いです。(派遣出張 | 講師訪問ISO内部監査員養成研修も参照ください)

社内研修或いはOJT研修

ISO内部監査員研修を社外から講師を呼んで実施してもよいです。また、社内講師を育成して社内講習として実施してもよいです。筆者は以前に大手メーカーさんでエリアごとのISO内部監査員社内講師を育成するプログラムで講師育成の講師を務めました。 さらには研修など受講しなくてもOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング 職場内研修)でも十分です。内部監査実施の場に立ち会って、内部監査員の仕事を見て覚えて、内部監査員に質問をして理解を深めて、次には自分でも内部監査を実施し先輩内部監査員からフォローしてもらい指導を受けるというのも非常に効果のある方法です。 ISO内部監査員として最低限身につけておいた方がよい知識は「監査の基本」と「判定基準」位ではないでしょうか。当HPを一通り見ていただけるだけでも良いと思います。 あとは、内部監査のやり方は会社ごとで「手順書」や「規定」の中で進行方法や作成する記録や報告方法まで決まっているはずですから、それに従い実施していけば良いはずです。
集合研修を実施していると時には変わった受講生が混じっていることがあります。就職の役に立つと考えて受講された大学生。失業中の求職者。転職を考えて有休を取得して受講していた会社員。皆さんISO内部監査員を公的資格と勘違いされて来られていたようです。ISO内部監査員は資格があるから出来るものではないですよと説明するとガッカリされていました。

ISO内部監査員の選定・任命

内部監査員の選定は社内で選定基準を決める上で、一番多いのが「社外研修を受講した者」「管理責任者(あるいは部門長など)が任命した者」としていることが多いようです。ですが、実際はほとんどの場合基準は不明です。集合研修で受講生の方に「どうして任命されたのですか?」と尋ねても大体は「理由はわかりません。命令されて来ただけです。」とのお答えが多いです。「きっと、日常の仕事ができるので任命されたんですよ」と私なりにフォローしますが、集合研修に社員を送り出す方は受講される社員のヤル気が高まるようにして欲しいです。

某エネルギー系メーカー(環境リーディングカンパニーを表明されています)では部長職になる要件としてISO14001内部監査員養成研修の受講を挙げています。また某グローバルメーカーでは課長職昇進時にISO9001/14001内部監査員養成研修を義務付けています。その他、全従業員に対しISO9001/14001/27001内部監査員養成研修の受講をさせている企業さんを複数知っています。

必要な知識?

ISO190011マネジメントシステム監査のためのガイドライン(日本規格協会発行)という「マネジメントシステム監査のための指針」という、監査(外部審査や内部監査を含む)を実施する人=監査員のガイドラインが発行されています。監査の進め方や報告の仕方が書かれており、当サイトでも参考にしつつ要は難解な内容をやさしく置き換えているつもりです。ただし、「監査員の知識及び技能に関する手引き」とかを読むと、ISOマネジメントシステム各々の専門知識(ISO9001:品質管理)(ISO14001:環境保全、ライフサイクルアセスメント)(ISO27001:情報セキュリティ技術)を持っていることが望ましいとされており、この手引きに従い監査員を選定・任命するのは、なかなかハードルが高いです。

必要な資質?

ISO190011マネジメントシステム監査のためのガイドライン(日本規格協会発行)では、監査員は監査の原則に従って行動するために必要な下記の資質を備えていた方が望ましいとしています。 一応ご紹介しておきますが、全部備えていたら将来は間違いなく社長の器を持った人なんではないかと思います。こんな素晴らしい人材は滅多にいないように思いますが、こんな特性を出せるように監査をおこないましょうということです。
論理的である 公正である。信用できる。誠実である。正直である。そして分別がある。
心が広い 別の考え方又は視点を進んで考慮する。
外交的である 目的を達成するように人と上手に接する。
観察力がある 物理的な周囲の状況及び活動を積極的に意識する。
知覚が鋭い 状況を直感的に認知し、理解できる。
適応性がある 異なる状況に容易に合わせる。
粘り強い 根気があり、目的の達成に集中する。
決断力がある 論理的な思考及び分析に基づいて、時宜を得た結論に到達する。
自立的である 他人と効果的なやりとりをしながらも独立して行動し、役割を果たす。
不屈の精神をもって行動する その行動が、ときには受け入れられず、意見の相違又は対立をもたらすことがあっても、進んで責任をもち、倫理的に行動することができる。
改善に対して前向きである 進んで状況から学び、よりよい監査結果のために努力する。
文化に対して敏感である 被監査者の文化を観察し、尊重する。
協働的である 監査チームメンバー及び被監査者の要員を含む他人と共に効果的に活動する。

ISO内部監査員として向いている人、向いていない人

  • 自分の仕事だけではなく、会社全体の業務プロセス(業務の繋がり)を理解している。
  • 他者と積極的にコミュニケーションが取れる。
  • 出来たら明るい性格だとよい。
  • 質問力が高い。傾聴力が高い。
  • 知識偏重型、人の話を聞けない、喋りすぎる人は向いていない。

ISO内部監査員研修効果・教育の有効性評価

ペーパーテストでは研修の効果は測れません。ISOマネジメントシステムでは力量が必要な業務を明確にし、教育訓練を実施した場合は有効性を評価(教育の目的を達っして目的通りの力量を身に付けたかを評価する)することになっています。それに従うと「内部監査員研修」を受講して「内部監査が出来たか」を評価して研修が役に立ったかを評価しなくてはなりません。その為には、社内の内部監査の責任者や管理責任者なりが監査結果をみて適切性を評価するしかありません。
ペーパーテストは不向きです。筆者が講師を務める場合は企業さんからペーパーテストを実施して欲しいと依頼されても極力お断りしております。過って、大手メーカーで「どうしても」と依頼されて簡単なペーパーテストを実施しました。40名程の受講者の中で一人だけ合格点に達しない受講者がいましたが、その方は研修中のロールプレイングやケーススタディの取り組みを私がみていて、柔軟な理解力と高いコミュニケーション能力、リーダーシップの発揮の仕方からタダ物ではないと思っていた方でした(後で判明したのですが執行役員でした)。逆にロールプレイングなどでは消極的で声も小さくコミュニケーションが取れていない人などは満点に近い点数を取っていました。後日、不合格になった執行役員の方は再試験を受けていただき合格となったのですが、その際にお話しした際に、その方は小中高・大学までストレートで受験勉強などしたことなくペーパーテストは苦手としているとの事を漏らしていました。筆者は、試験など苦手でも仕事が大変できる方をたくさん知っています。

ISO内部監査員のスキル向上

内部監査員のスキルアップを図りたいという企業さんが多いです。知識研修をしても効果は低いと考えています。それよりも「監査の目的を共有する」(例えば改善提案をおこなう、マネジメントシステムの目的を達しているか確認する等)、「監査で何を達成したいのか共有する」等の方が有効な気がします。

規格要求事項を深く理解する必要はない

時々、ISO規格要求事項を詳しく説明してほしいという担当者さんがいますが、「そんなことしても内部監査の質は一切向上しませんよ」とお答えてしています。ISO規格要求事項はWhat 何)を要求しているだけであって、実際の業務How どのようにを理解しないと内部監査も上手くいかないです。ISO規格要求事項の理解を内部監査員に求めるのではなく、自社のマネジメントシステムの説明をおこない理解を深めなければなりません。

身に付けて欲しい能力

筆者が内部監査員として身に付けて磨いてほしい能力は次のような事です。

コミュニケーション力

「接する」「聞く」「話す」「問う」「書く(報告書など文書で伝える)」も含めてコミュニケーションです。筆者は内部監査は「明るく・楽しく」を提唱していますが、内部監査を通じて被監査部門に貢献し、ヤル気を引き出し、改善意欲を高めるためにもそのためにもコミュニケーション力は必須です。

傾聴力

相手の話を前提条件を持たずに、心の中でも否定することなく聞き相手の話を理解します。特に内部監査は社内で実施するのですから共感し、会社をよくするために何ができるかを話し合うためにも相手の立場や状況も理解するために必要です。

質問力
質問により「自ら問題点を認識してもらう」「自発的な行動に移してもらう」ことも十分に可能です。コーチング技術、行動初認、モチベーション理論などで様々な質問の仕方が紹介されています。